ノーパットの旅 のバックアップ(No.11)
「客観的なジャーナリストを自負する私は、本当にノーパットは世界が指摘するとおりの悪人なのかを確かめようとしてきた。しかし、その答えを得るために、自分が今にも戦禍に呑まれつつある場所を巡って世界を旅することになるとは知る由もなかった。私は彼らの物語を記録するようになり、それは次第に私自身の物語となっていった。これは私たちの旅なのだ」 ケイヴァン・バシール パート1 「ドーハからの脱出」2041年9月12日 一年前、まだ人間がそこに住んでいた頃、私の故郷のドーハでダークネットを閲覧していた時にすべてが始まった。私はジャーナリストとして、武装したノーパットの問題について深く興味を持つようになり、この国を持たない兵士集団との窓口を得る方法を見つけようとしていた。午前3:28になって、匿名の情報源から私にダイレクトメッセージを送信されてきた。その情報源は、自分が世界的な最重要指名手配者であり、ノーパット最大部隊の司令官として知られる「オズ」であると言うのだ。 そのときは一年もしない内にカタールが破綻国家となり、ドーハの街が砂の中に消えることになるなど知る由もなかったのである。 パート2 「奇術」2041年11月1日 願い事は慎重に選ぶべきだ…ドーハを脱出してもうすぐ2か月になろうとしている。私はオズの残した“パンくず”を追って、貨物コンテナで造られたインドのセーフハウスへと辿り着いた。その中は武装したノーパットで溢れ返っていて、元情報部員、元医者、ナイトクラブの用心棒や車の整備士などがいた…その全員は、自らの過去を隠そうとしていたが、彼らの話すデマカセ話に耳を傾け、皮肉な笑いを観察しているうちにそれぞれの来歴を伺い知ることができた。 あの夜、豪風が吹き荒れる中、まるで全方向から銃声が聞こえてくるようだった。インド軍が我々の追跡を続ける中、ラオはかすり傷を拭い、舵を取って、我々の逃亡ルートを封鎖している黒い鉄の船の残骸周辺を進んで行った。 パート3 「コヨーテ・ラン」2042年2月19日 失うものなど何もない者にとっても、これが正気の沙汰でないのは明らかだった。数か月間、プロセッサーから豚バラ肉まであらゆるものを輸送したあと、最新の貨物となったオーストラリア難民65人が、このタスクフォースの経歴に「コヨーテ(不法移民の仲介業者)」を追加した。霧の中から次の目的地が現れたときには、思わず息をのんだ… …一瞬のうちに大騒ぎになるだろう。 30年代半ばには、海面上昇によって世界にある商業港の3分の1が壊滅した。これに対し、シンガポールはAI主導の貨物流通システムを守るための革新的なシーウォールを建設し、ブラニ島は世界貿易の中心地となった。 パート4 「第三の勢力」2042年5月8日 オズは『知るべき必要』という概念を全く新しいレベルに高めた」わざとらしい仕草でマケイが言う。「電報から目的地を決定したが、あの情報はフォーチュンクッキーの占いみたいに不確かだった。十分に気をつけろよ」 陰謀論はフェイクニュースばかりではないようだ。 パート5 「パイナップル・エクスプレス」2042年7月9日 二重包みのゴミ袋が44ガロンあれば、約22kgを回収できる。10,000 SGD紙幣の平均重量は1.081グラムだ。つまり、ロシア軍がシエラ級潜水艦から船に投入した袋には、2億SGD以上の価値があったということだ。突然、艦橋に置かれた古い電信機器が鳴り出した。オズからだ。パイクがメッセージを読み上げる。「コンテナを5つ受け取った。クールーまで運んでくれ… 冗談だろ!?」 その三週間後、私たちは鉄道で貨物をフランス領ギアナに運んでいた。この場所が超大国に注目されるとは思わなかったが、2040年の大停電は世界の様相をひっくり返していたのだ。ラオによると、「大停電がインターネットを潰したと思っている人間は多いが、本当に影響が大きかったのは軍事関連」とのことだ。「2つの超大国はスパイ衛星を失い、宇宙にハードウェアを再配備しようと先を競った」アメリカ軍はカナベラルを海に失ったばかりだったため、連中がクールーで古いEUの発射拠点を嗅ぎまわっているのではないかと噂が立つまで、そう時間はかからなかった。「まともな奴がいなけりゃ、違法な宇宙デスレーザーを発射するのにもってこいの場所だ」ラオは笑う。 その一週間後、私たちはクールーに到着した。ロシア製の武器で武装した地元の民兵組織に荷物を届けるためだ。コンテナが開けられるたび、「パイナップル」が現れた。思わず苦笑をこらえられなかったが、フルーツが取り除かれ、Volcov製の多連装ランチャーが隠されているのがあらわになり私の表情は一変した。ロシア製ロケットランチャーの一級品だ。だが誰かが口を開くよりも前に、アメリカ軍が一帯になだれ込み、激しい銃撃が起こった。鋭い痛みが身体の左側を貫く。私は意識を失った。目が覚めた時には、私は台に載せられマリアの手当てを受けていた。包帯が腹に巻かれている。初めての銃創だ…これが最初で最後になるといいが。 パート6 「故郷に戻る唯一の道」2042年8月14日 例えば、あなたが銃弾による傷を負って戦地を逃れるときに、親切にも誰かが車に乗せてくれたとしよう。しかし、その者に行先を聞いてはいけない。こうして、私はロシアの「世界の果ての給油所」と呼ばれる南極の石油掘削基地に取り残されてしまった。 長年、世界中のノーパットはロシアに石油を頼っていたが、状況が変わってきたのは明らかだ。ロシアとアメリカは対立している。我々が到着したと同じ頃、ロシアはノーパットへの石油供給停止を決定した。これを免れるには、ロシアに唯一の忠誠を誓うしかない。オズにとっては払いたくない代償だ。 パート7 「経路変更」2042年10月10日 SMGS-04 エクソダスは、元アメリカ海兵隊員が指揮するアーレイ・バーク級の駆逐艦だ。そう、ノーパットは今、軍艦を航行している。それは、これから起こることの予兆であり、この冒険が終わる時が来たことを意味している。 親愛なる読者の方々、すまない、もう終わりだ。命の危険を感じながら生きた13ヶ月間は、神経を痛めつけた。私はノーパットを理解したかった。しかし、ノーパットとして死にたいわけじゃない。今、この船から降りなければ、選択の余地はないだろう。私の母国は黄塵地帯だが、エジプトには再生の物語がある。38年、世界的な穀倉地帯が破城したとき、シンセコ・アグレテックはそれに代わる二つのパーツからなるシステムを完成させた。一つ目は、最も乾燥した気候でも成長する遺伝子組み換え作物。二つ目は、砂漠へ水を引く画期的な計画だ。 だから私はこの仕事を引き受けた。ノーパットはもうたくさんだ。 アフリカの海岸に向かって静かに航行していると、アンヘルとの会話が頭から離れなくなった。超大国が衝突の道を歩んでいる。ノーパットが絡むと、大きな犠牲を出す混沌とした戦争になりかねない。オズの最善の努力にもかかわらず、ノーパットは未だに様々な目的を持つ分裂したグループだ。もしそれらのグループが戦争の中に戦争を起こしてしまったら、すでに十分に苦しんでいる世界をさらに破壊するかもしれない。 「…新たな未来を手に入れるチャンスは一度のみ。我々はそのチャンスをモノにする…」 パート8 「戦争の序曲」2042年10月20日 ロンドンは3フィート(約90センチ)の深さに水没した。破綻した国家の破綻した首都だ。オズがエクソダス号に経路を変更させた理由は謎のままだが、キンブル・「アイリッシュ」・グレーブズ大尉が一人で上陸し、負傷した海兵隊員とブリーフケースを回収し、合流指示を受け取り戻ってきた際には緊張が高まった。それは単純な受け渡し作戦のはずだったが、何かがアイリッシュの考えを変えたようだ。すぐに3機のコンドルからの曳光弾が甲板に浴びせられ、私たちはカテゴリー5の嵐の中に大急ぎで逃げた。爆発音が隠れていた私の鼓膜を突き刺した。ブリーフケースの中身は、この船に乗っている200人のノーパットよりも価値があるものだ。 勇敢なタスクフォースが銃弾と榴散弾の飛び交う地獄絵図の中で戦っていたとき、甲板の下で私たちを遮っていた水密扉のヒンジが爆発した。血を浴びた兵士が突入してきて、奴らの目当てのものを見つけた。それは…アイリッシュの7歳の息子、オマーだった。 オズとアイリッシュ、ノーパットの存続のために戦う2人の男。しかしその手段はまったく違っていた。一方はアメリカおよびロシアとの距離を取り、もう一方は積極的に彼らを操ろうとしていた。そして、ブリーフケースに入っていた情報は、ロシア人が欲しがっていたアメリカの秘密…超大国を全面戦争に引き込むためのエサだったのだ。オズの部下がアイリッシュの息子を奪ったあの戦いの夜に、何かが変わった。子供のノーパットが私を必要としていた。ラオ、アンヘル、ファルックたちが何をするか、そして自分が何をするべきかは分かっていた。私は兵士じゃないが、とにかく彼のあとを追った。その後、アメリカ兵のアイリッシュがロンドンで負傷させた、クレイトン・パコウスキーが手錠で担架に繋がれた状態ながら、助力を申し出る声を聞いた。彼は、この旅で出会ったスペシャリストたちと同じ表情をしていた。私は彼を解放した。彼の犠牲は後にアイリッシュの息子を救ったが、機密情報の漏洩を招く事態となった。 コメント全ページのコメント欄について改行は非推奨です。 |
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